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浦和地方裁判所 平成4年(ワ)657号 判決

原告

湯浅守

右訴訟代理人弁護士

一岡隆夫

山本忠雄

秋友浩

被告

天商株式会社

右代表者代表取締役

須田公敏

右訴訟代理人弁護士

橘節郎

原誠

主文

一  被告は原告に対し、一四五二万円及びこれに対する平成四年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、六二三五万円及びこれに対する平成三年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

(浄水器水丸の業務委託契約関係)

1 原告は、平成二年九月一九日、被告との間に、被告が販売する浄水器水丸の販売、リース契約代行及びメインテナンス業務につき、次の内容で業務委託契約を締結した。

(一) 原告は、資本金一五〇〇万円で株式会社を設立する。

(二) 原告は、保証金二〇〇万円を被告に預託する。

(三) 原告の商圏は京滋地区とし、原告は、権利金として被告に三〇〇〇万円を支払う。

(四) 被告は原告に対し、宣伝販売できるように大型店を紹介し、経営を指導し、商品の宣伝に努め、原告に利益があげられることを保証する。

(五) 契約期間は平成二年一〇月一日から三年とし、期間満了三ケ月前迄に相互に何らの申し出がなければ、順次一年間ずつ延長される。

2 原告が本件契約を締結することになったのは、被告が商品を全国的に宣伝広告し、大型店を紹介する、原告の営業活動を指導するなど全面的にバックアップする、メインテナンスをするだけで高収入が得られることは間違いない等として強く勧め、高い利益の獲得を保証したからである。

具体的には、被告の代表者や松本部長は平成二年八月二五日、原告の事務所を訪れた際、(1)被告とダイエーとの間にダイエーの店舗内に浄水器を展示する旨の一〇年間の契約が成立した、(2)天商グループは札幌、仙台から福岡まであり、心配ない、(3)一〇月から京都テレビでコマーシャルを流す、(4)月に一〇〇件の契約をとれば年間二二五〇万円の売上となり、原告の会社京滋天商株式会社の予想経費五五〇万円を控除しても、一七〇〇万円の利益となる、(5)天商グループの他の会社は、毎月八〇件から一三〇件の契約をとっている、(6)浄水器は大阪ガスが開発し、その関連会社が製造しているなど、本件浄水器の取引には大会社も関係しており、必ず利益が生ずるがごとき不当な説明をした。

3 原告は右のような説明を聞いて前記のように浄水器業務委託契約を締結し、右契約に基づき、平成二年一一月一六日、原告の全額出資で、京都市左京区一乗寺払殿町四八に京滋天商株式会社を資本金一五〇〇万円で設立し、被告に保証金二〇〇万円を預託し、権利金三〇〇〇万円を支払った。また、京滋天商株式会社の設立、事務所賃借、事務用備品購入などで三〇〇万円以上を支出した。そして、原告は、京滋天商株式会社を本拠にして、従業員を雇い入れ、営業活動を始めた。

ところが被告は約束に反し、商品の宣伝を十分にせず、ダイエー、かまどやなどの大型店を紹介しなかった。このため京滋天商株式会社の売上は上がらず、経費さえ賄うことはできず自分の給料を取らないでも毎月九〇万円以上の欠損を出し続け、資本金を取り崩しても資金繰りが苦しく、営業が成り立たない事態に陥り、結局、平成三年五月末ころ、業務を中止せざるを得なかった。

4 ところで、被告の傘下には、原告の場合と同じように、販社と称して、被告の営業活動のために、平成二年五月から九月ころにかけて、大阪や名古屋など全国のいくつかの地区に株式会社が設立されたが(大阪は大阪天商株式会社、名古屋は名古屋天商株式会社)、これらはいずれも開業後しばらくして営業を継続することができなくなって浄水器販売から撤退している。大阪天商の場合は、平成二年九月資本金を二〇〇〇万円として設立されたが、浄水器のリース販売からは全くといっていいほど利益が上がらず平成三年の四月ころ同社の代表取締役鳥井和弘は同社の株式の四九パーセントを被告に譲渡している。また名古屋天商株式会社は平成二年五月ころ資本金二〇〇〇万円で設立されたが、やはり本件浄水器の販売からは見るべき利益がなく、平成三年一〇月ころ同社の代表取締役である奥寺良治は自己の所有する株式一九六株を被告に譲渡することを余儀なくされている。これらのことからすると、被告は、本件浄水器販売の業務からは何らの利益が上がらず逆にその事業を継続すればするほど損失が累積されるのみであることを遅くとも平成二年九月ころには認識していたというべきである。それにもかかわらず、前記のように原告が被告との間で、平成二年九月に「月に一〇〇件の契約が取れると、年間二二五〇万円の売上となる」などの甘言をろうして、浄水器の業務委託契約を締結せしめ、販社である京滋天商株式会社を資本金一五〇〇万円で設立せしめたことは、不法行為を構成するというべきである。

5 また、浄水器水丸の販売業務委託契約は、全国的規模で「水丸」の販売のみを目的として会社を設立させ、その会社に「天商」の文字を入れさせ、それを統一して販社と呼ばせ、被告の側で販売並びにリース契約代行及びメインテナンス業務の形式を統一し、宣伝と指導を行い、管轄地域を定めてその地域の独占的営業権を与え、その見返りとして権利金(原告の場合は三〇〇〇万円)を支払わせる形態をとるもので、このことはいわゆるフランチャイズ契約そのものである。一般に、フランチャイズ契約の場合には、加盟者を通常の取引契約の場合に比較して格段に強い契約的拘束のもとに本部の系列の中に組み込むものであるから、加盟希望者の加盟にあたってはその判断を誤らせるような行為が行われてはならず、また契約内容については、契約全体として本部と加盟者との間で相互的に均衡がとれていることが必要であり、加盟者のみを不当に拘束するものであってはならないとされている。ところで、被告は、浄水器の販売業務委託契約締結に当り、販社事業計画なる書面を作成しているが、それによると、事業開始後六か月経過後は必ず利益が計上でき、二年で支払った権利金も回収し、三年目には、数千万円の利益が蓄積できることになっている。右は浄水器販売の取次店であるエージェントが毎月二五店の割合で継続的に増え続けることになっているが、実際にはそのような数字は到底実現不可能な数字である。ところが、被告はダイエーとの提携ができているとか、被告がバックアップすることで容易に実現するといって原告を誤信させた。

被告のこのような行為は権利金三〇〇〇万円等を騙し取るための欺罔行為にあたる。

仮に、契約が有効であるとしても、被告には、被告が勧誘の際に原告に示したように毎月二五店の割合に近い数字でエージェントの増加が可能であるような適切な宣伝広告、指導等を行う義務がある。しかるに、被告はこの義務に反して宣伝、広告、経営指導等を行わなかった。

6 損害

(一) 以上のような被告の不法行為または債務不履行により、原告は次のような損害を被った。

① 二〇〇万円 保証金名下に被告に支払った金員

② 三〇〇〇万円 権利金名下に被告に支払った金員

③ 一五〇〇万円 京滋天商株式会社の設立の資本金として出捐し取り崩して費消した金員

④ 三〇〇万円 原告が別に持ち出して注ぎ込み費消した金員

⑤ 五〇〇万円 原告がだまされ、多額の資金を都合し、無給で働き、遂に廃業せざるを得なくなったことに関する精神的損害

以上合計 五五〇〇万円

(二) 原告は、平成三年七月一二日到達の書面で、右の内金四八〇〇万円を支払うよう催告した。

7 また、権利金は、被告のフランチャイザーとしての安定した商品の供給、業務経営指導、統一的宣伝広告等の活動に対する対価またはその先払いとしての意味を持つものである。しかるに、被告は契約期間内に一方的に事業を中止し、以後フランチャイザーとしての活動を何らしていない。そうすると、被告は、少なくとも権利金のうち契約期間の残余期間に見合う分は不当利得として返還すべきである。

(レンタルビデオ関係)

8 原告は、レンタルビデオ店「びでおさーくる」を経営しているが、平成二年八月二一日、被告との間に「VIDEOライナー」の名称を用いてビデオレンタルの宅送方式による営業をするについて、左記内容でフランチャイズ契約を締結した。

(一) 加盟金 五〇万円。

(二) 権利金 四二〇万円(亀岡市、船井郡をテリトリーとする)宣伝、営業指導は全面的に被告においてする。

(三) 契約期間 契約締結時から五年。但し、期間満了三か月前迄に当事者の一方または双方から申し出がなければ順次一年間ずつ延長される。

9 原告は、右契約に基づき、そのころ加盟金名下に五〇万円、テリトリーに対する権利金名下に四二〇万円を支払った。原告は営業のための車両(ライナーカー)二台(計二五〇万円)、ビデオテープ一〇五万円分を購入して営業を開始した。

ところが、被告は、本方式によるビデオレンタル営業の宣伝を十分に行わず、営業ノウハウ習得のための経営指導援助を行わなかった。これは被告の債務不履行であり、将来もこれが行われる見込みはなかったので、原告は平成三年七月一二日到達の書面で被告との契約を解除した。

10 損害

被告の債務不履行により原告は次の損害を被った。

① 五〇万円 加盟金名下に被告に支払った金員

② 四二〇万円 権利金名下に被告に支払った金員

③ 一六〇万円 原告は二五〇万円で購入したライナーカー二台を処分したが、二台で九〇万円にしか売れなかった。

④ 一〇五万円 ビデオテープは今日では旧作となってしまい、価値がなくなった。

以上合計 七三五万円

11 7で述べたように、ビデオレンタルのフランチャイズ契約でも権利金はフランチャイザー側の契約期間中の業務経営指導や統一的宣伝広告等の活動に対する対価またはその先払いという意味がある。しかるに被告は、契約期間内に一方的に事業を中止し、フランチャイザーとしての活動を果たしていない。したがって、被告は、少なくとも、権利金のうち契約残存期間に見合う分は不当利得として返還すべきである。

12 よって、原告は、被告の不法行為または債務不履行ないしは不当利得を原因として合計六二三五万円とこれに対する催告書等の到達した日の翌日である平成三年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(浄水器関係)

1 請求原因1は、(一)と(四)の点が業務委託契約の内容となっているとの点を除き認める。

2 同2は否認ないし争う。

3 同3は、原告が京滋天商株式会社を設立したこと、保証金二〇〇万円と権利金三〇〇〇万円を支払ったことは認め、その余の事実は不知ないし否認する。

4 同4、5は否認ないし争う。

5 同6(一)は否認し、6(二)は認める。

6 同7は否認する。

(レンタルビデオ関係)

7 請求原因8は認める。

8 同9は、原告が加盟金五〇万円、権利金四二〇万円を支払ったこと、車両を購入したことは認め、その余は不知。

9 同10ないし12はすべて否認ないし争う。

第三  証拠関係は、本件訴訟記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるのでこれを引用する。

理由

一  本件の経緯概要

成立に争いのない甲一ないし二四(ただし、甲六、八、一八、二〇、二一については手書きによる書き込み部分を除く)、原告本人尋問の結果により成立が認められる甲二五ないし二七、同尋問結果、被告代表者尋問結果によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和二五年生で、昭和四七年に大学経済学部を卒業し、数ケ月父親の経営するガソリンスタンドを手伝った後、約一〇数年間フランス、イギリス、スペインなどで語学や貿易実務等を学び、昭和六一年からは郷里の京都府亀岡市に居を構えて実家の隣りでレンタルビデオ等の仕事をしていた。

2  原告は、新聞広告で、被告が「VIDEOライナー」の名称で行っていた宅配レンタルビデオ事業加盟店募集のことを知り、平成二年七月ころ、米国人の妻とともに大宮市の被告本社を訪れた。ところが、被告側では、レンタルビデオの話とともに、被告の販売する浄水器「水丸」の販売のための会社(「販社」という。)を設立して浄水器「水丸」の販売をすれば儲かるとの話を持ち出した。しかし、原告は、その日は、約六時間位にわたって「販社事業計画書」と題する冊子(甲四)に基づいて水丸の説明を受けたものの、結局千葉市の被告のVIDEOライナーの加盟店を見学しただけで帰った。

3  その後被告の須田社長や松本部長は何回か原告のビデオショップの店を訪れ、被告のVIDEOライナーの加盟店となることを勧め、結局、同年八月二一日付けで、原告は被告との間で、VIDEOライナーの名称で被告の指定するやり方でのビデオの宅送方式によるレンタルビデオ事業を行うフランチャイズ契約を締結した。右契約においては、被告は、被告の定めた商号、サービスマーク、商標を原告が使用して、京都府亀岡市、船井郡において独占的にVIDEOライナーの名称で宅送方式によるレンタルビデオ事業を行うことを承諾し、被告は原告に営業ノウハウ等を指導すること、契約期間は契約締結日から五年間とすること、原告は被告に権利金四二〇万円と加盟金五〇万円を支払うこと等が定められた。そして、そのころ、原告は被告に権利金四二〇万円と加盟金五〇万円を支払い、被告の指定するVIDEOライナー専用の型式の車両(ライナーカー)二台を代金二五〇万円で購入し、ビデオテープも被告から一〇五万円で購入して直ちに事業を開始した。

4  次に、同年八月二五日、被告の須田社長と松本部長が原告のビデオ店を訪れ、浄水器水丸の販売委託について勧誘した。被告側では概ね、浄水器「水丸」は大阪ガスが開発した商品でダイエーの定番商品となっていること、権利金三〇〇〇万円を払えば京滋地区で「水丸」の独占的販売権を取得でき、この地区のダイエー店舗五店で販売できれば合計七五〇万円位の売上が期待できること、京滋地区のテリトリーにおいて平均月当り一〇〇本の注文が予想でき、一〇〇本の注文をとれば一本当り二万二五〇〇円の手数料等の収入があるから全体で二二五万円の収入となり、販売会社の経費を引いても一か月一五〇万円の利益が期待できること、同年一〇月からは京都地区でもテレビ宣伝を流すことなどを説明して、原告に被告が「販社」と呼ぶ浄水器水丸の販売会社の設立と被告との業務委託契約の締結を勧めた。

その結果、原告も浄水器水丸の販売受託事業に乗り出す気となり、同年九月一九日付けで、被告との間に、浄水器水丸の販売、リース契約、保守業務の業務委託に関する業務委託契約を締結した。この契約では、浄水器水丸の売主は被告がなること、原告の管轄地域を湖北、京都、大津、舞鶴、福知山とすること、原告が浄水器水丸の注文をとると、一本当り八〇〇〇円の手数料と七〇〇〇円の取付手数料、七二〇〇円のメインテナンス手数料(三年分一括)が被告から原告に支払われるが、取付や浄水器の保守管理は原告の責任において行うこと、契約期間は平成二年一〇月一日から三年間とし、原告は被告に権利金三〇〇〇万円と保証金二〇〇万円を支払うことが定められた。そして、そのころ原告は被告に右権利金と保証金を支払った。また、同年一一月一六日付けで販社たる京滋天商株式会社を京都市左京区に資本金一五〇〇万円で設立し、事務所を構え、浄水器水丸の販売事業に乗り出した。

5  ところが、原告の目論見に反し、浄水器の注文は一月当り一〇本から多くとも三〇本内に留まり、原告の設立した販社は毎月九〇万円以上の欠損を出し続けて、営業が成り立たず、結局原告は平成三年五月末ころ京滋天商株式会社の事業を中止した。

また、原告の始めたVIDEOライナーの名称でのビデオレンタル事業も収益が上がらなかったため、原告は平成三年七月ころ事業を中止し、その頃、ライナーカー二台も合計九〇万円で売却した。

二  不法行為の主張について

1  原告が本件浄水器業務委託契約を締結するに当り、被告から上記一4のような内容の説明を受けたことが認められる。しかしながら被告がその説明の過程において、原告が主張するように、必ず一月一五〇万円もの利益が出ることを保証するとの説明をしたことを認めるに足る証拠はない。

2  かえって、被告代表者尋問の結果成立が認められる乙二〇の一ないし三、二一、二二の一ないし四によれば、浄水器水丸が大阪ガスの開発したアドールという繊維状活性炭フィルターを使用していること、ダイエー店舗で販売できる商品となっていて、関西地区の多くのダイエー店舗において相当の回数実演販売も行われたことが認められ、商品の品質、販売上の地位等において被告の説明は概ね事実に合致していると認められる。また、甲一によれば、被告は、一月一〇〇本の注文が取れれば、月にオーダー手数料など合計二二五万円の収入となることなどを説明していることが窺われるが、この収入を保証したとまでは認めるに足りない。たしかに、言葉の上では、勧誘の過程でそのような収入があることは確実であることを匂わせるような説明があったとしても、ことは浄水器の注文を客からとることが前提となっているのであるから、それ相応の営業努力が要求され、場合によっては、原告の目論見通りにならないことは商売の勧誘上暗黙の前提となっているというべきである。

3  この他、本件全証拠によるも、被告において、原告との間で本件業務委託契約を締結する過程において、詐欺と目し得るような欺罔行為があったことを窺わせるような事情を見出しがたい。

三  債務不履行の主張について

1  次に、被告が契約で定めた経営指導や宣伝広告、ダイエーや弁当店かまど屋への紹介などを殆ど行わなかったとの原告の主張について検討する。

成立に争いのない乙一、二によれば、VIDEOライナーのフランチャイズ契約では、第五条に(営業指導)として「甲(被告)は乙(原告)に対し、本レンタルシステムに関する営業ノウハウの実施につき、指導し、その技術を習得せしめるものとする。甲は乙の営業開始につき、必要資材の供給・斡旋をするなど、具体的に指導援助し、乙の万全かつ円滑なる業務開始に協力するものとする。甲は乙の営業開始以後も、その営業状態に注意し、業務全般にわたり適切な指導をなし、乙の繁栄に協力しなければならない。」との規定があること、浄水器水丸の業務委託契約には、第一四条で(業務指導)として「甲(被告)は、乙(原告)の本事業が順調に発展できるよう積極的に乙を業務指導し、乙はこれに従うものとする。」との規定があることが認められる。

2  しかしながら、成立に争いのない乙五、被告代表者尋問の結果成立が認められる乙六の一ないし六、七、九の一ないし一一、一〇の一・二、一一の一ないし三、一二の一・二、一三の一ないし二八、一四ないし一七、二二の一ないし四、二三の一ないし五、二四、二五の一ないし四、二六ないし三一と同尋問結果によれば、(1)VIDEOライナーのレンタルビデオ事業については、被告の社員が原告のビデオ店を平成二年八月、九月にかけて数回訪問して宅送方式でのレンタルビデオ事業の説明を行ったほか、フランチャイズ契約事前説明書(乙五)に記載された管理者研修、加盟店会議や管理者セミナーの開催、「ライナーニュース」という社内報発行などを通じてひととおりの教育、研修、宣伝、広告を行っていること、(2)浄水器水丸に関しては、被告は、平成二年一〇月に四回、一一月、一二月に少なくとも四回、一月から五月にかけて少なくとも五回位は被告の社員が京滋天商株式会社を訪問して経営指導や、ダイエーでの実演販売(「催事」と呼ぶ)の実習応援などをし、前記のとおり浄水器水丸はダイエーの店舗で販売し得ることの手筈を整え、持ち帰り弁当店チェーンかまど屋の店舗でのモニター募集もしていること、平成二年一〇月から五月にかけて、被告は、総額七八〇〇万円以上の費用をかけて新聞、雑誌、テレビなどに浄水器水丸の宣伝広告をし、平成三年五月には一億一六〇〇万円余りの費用をかけて朝日、読売、日経の全国版夕刊に浄水器水丸のモニターキャンペーン広告をのせ、四万通以上の応募葉書を受付けたこと、がそれぞれ認められる。

これらの事実並びに本件浄水器水丸の業務委託契約、VIDEOライナーのフランチャイズ契約の内容、原告の支払った権利金の額、性格等を総合すると、後述の被告の業務中止までの期間の被告の行った上記のような経営指導や宣伝広告が、契約上または条理上著しく不十分ないし不相当であるとまでは認めるに足りない。

そして、この他原告と被告とのビデオフランチャイズ契約や浄水器水丸の業務委託契約において、どのような具体的な内容の経営指導や宣伝広告が契約上予定されていたかは本件証拠上明らかでなく結局この点の原告の主張は理由がないといわなければならない。

四 被告の事業中止による不当利得返還請求について

フランチャイズ契約において、契約締結時に加盟店(ジー)から本部(ザー)の側に返還約束のない多額の権利金が支払われるという場合、その権利金の性格は、特段の事情がない限り、取り扱う商品またはサービスの一定地域における独占的営業権の付与、サービスマーク・商号・商標等の使用許諾、統一的方法での経営指導・援助、宣伝・広告等に対する対価またはこれらサービスに対するロイヤリティの先払いというところにあると認められる。そこで、フランチャイズ契約で一定の契約期間が定められ、加盟店から本部へ支払われた権利金については、その回収はその期間内における営業利益によることが予定されているというべきであるから、契約の中途で正当な理由がないのに本部の側で一方的に事業中止をし、加盟店の営業継続が困難になったという場合には、少なくとも、契約の残存期間に見合う分の権利金は不当利得として、加盟店は本部に対して、その不当利得に相当する金員を返還請求することができると解するのが相当である。そして、契約に「権利金はいかなる場合も返還しない。」旨が記載されていても、それは本件で問題としているようなフランチャイズの本部側の一方的な事情による事業中止の場合は含まれないとみるのが衡平上相当である。

これを本件についてみるに、先に見たように、原告は被告との間で、(1) 平成二年八月二一日、VIDEOライナーのフランチャイズ契約を契約期間五年として契約し、その頃権利金四二〇万円を支払い、(2) 同年九月一九日、浄水器水丸の業務委託契約を契約期間同年一〇月一日から三年として契約し、その頃権利金三〇〇〇万円を支払ったことが認められる。しかして、被告代表者尋問結果によれば、被告会社は、主として浄水器水丸のリース契約に関し提携してきた(リース債権買い取りを行ってもらっていた)オリックスクレジット株式会社が提携を断ってきたことを原因として、事業が行き詰まり、平成四年九月以降は一切の事業を中止していることが認められる。そうであるとすれば、右事業中止の原因は、もっぱら被告の側に責任があると認めざるを得ないから、原告としては、既に支払済みの権利金のうち少なくとも契約残存期間に見合う分の金員を、不当利得として被告に返還請求できるものというべきである。

被告は、あるいは、被告の事業中止の前に、既に原告自らVIDEOライナー事業や浄水器水丸の業務受託事業を中止する旨を表明していたのであるから、原告の損害と被告の事業中止との間に因果関係はないとの主張をするかもしれないが、原告としては、ビデオフランチャイズ契約または浄水器水丸の業務委託契約の詐欺による取消または債務不履行による解除を原因として権利金等の返還を被告に請求し続けてきたものであり、被告がこれらの主張に同意しなかった以上原告としては契約期間内いつでも事業を再開継続し得たものというべきであるから、原告の前記のような意思表明の事実は、被告の事業中止による原告の不当利得返還請求権の発生を妨げるものではない。

そうすると、以上から、被告としては、少なくとも、ビデオレンタルのフランチャイズの関係では権利金四二〇万円のうち契約残存期間約三年に見合う金員として二五二万円を、浄水器水丸の業務委託契約の関係では権利金三〇〇〇万円のうち契約残存期間約一年に見合う一〇〇〇万円を、それぞれ遅くとも被告が事業を中止した後である平成四年一〇月一日以降原告に返還すべき義務があると認められる。

五  浄水器水丸の業務委託契約の保証金二〇〇万円について

また、被告は前記のように平成四年九月以降事業を中止し、その時点で原告と被告との浄水器水丸の業務委託契約も終了したというべきであるから、浄水器水丸の業務委託契約一二条に従い、被告は原告に対し、原告が被告に預託した保証金二〇〇万円も返還すべきである(仮に、契約通りとしても、右保証金に関しては、契約期間三年経過後の平成五年一〇月一日に返還時期が到来していることは明らかである。)。

六  結論

そうすると、原告の本訴請求は、被告に対して、不当利得としてビデオレンタルフランチャイズ契約の権利金のうち残存期間に見合う分として二五二万円、浄水器水丸の業務委託契約の権利金のうち残存期間に見合う分として一〇〇〇万円、浄水器水丸の契約保証金二〇〇万円の合計一四五二万円の返還とこれに対する平成四年一〇月一日以降支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余の部分は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官豊田建夫)

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